量を計る

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PoIC では、カードの枚数から役に立つ情報を抽出することもできます。

アイディアを計る

ここでは私が自宅で使っているドックをサンプルとして統計を取ります。ドックの中のカードは、生活に関する記録(日記)、自分で考えた生活のコツ、PoIC に関することなどが書かれています。タグを見ると、その 80 % 以上が「発見カード」です。したがって、カードの枚数は、私の頭の中から出てきたアイディアの量に比例しています。

統計を取りグラフ化する

月ごとのカード産出量をグラフにします。統計には、私が本格的に 5x3 方眼カードを使い始めた2006年2月から、2007年7月までのカードを使います。カードの枚数を一枚ずつ丹念に数えることもできますが、ここではもっと簡単に「カードの重さ」を量ることで枚数を算出します。

まず、一カ月分のカードの重さを量り、カード一枚当たりの重さ 1.5 g(100枚で150 g)で割ります。これをプロジェクトペーパーに記録し、最後に表計算ソフトを使ってグラフ化します。統計の結果を下の図に示します。

2006年2月〜2007年7月、一カ月ごとのカードの枚数のグラフ。

このグラフを眺めていると、いくつかのことに気付きます。

  1. 5x3 カードを使い始めた2006年2月は20枚/月しか書けていない
  2. その翌月 (2006年3月) には、一気に267枚/月にまで跳ね上がっている
  3. 2006年5月から8月にかけてカードを書く量が徐々に回復している
  4. 毎年5月・6月はカードを書く量が少なくなる
  5. 毎年3月はカードを書く量が多くなる

数字だけでなく、その間に書いた個々のカードの内容と照らし合わせることで、どうしてそうなったかを考えることができます。

PoIC メソッドの確立

まず、1 と 2 の原因について考えてみます。2006年2月から3月にかけて、カードの枚数は極小から極大へと変化しています。2006年2月にカードが少ないのは、私がカードシステムそのものに慣れないからというわけではありません。なぜなら、私はこの半年も前に、PoIC の前身となるカードシステムをすでに導入していたからです。カードが少ない原因は他にありそうです。2月から3月にかけて書いたカードの内容を見てみると、次のようなイベントが続いて起こっています。

こうして見てみると、現在の PoIC のほとんどが、この時点で確立されていることが分かります。分類から時系列への移行は、一種の見切りです。私は、書いたばかりのカードは分類しにくいこと、分類しようとするとカードが書けなくなることに気付きました。分類をやめて、時系列でカードを蓄積することで、分類の煩雑さからくる心理抵抗から開放されました。

アイディア創出の初期段階におけるボトルネックが解消され、それまで脳からのアウトプットを止めていたものが無くなりました。その結果、頭の中でくすぶっていたアイディアを一気に放出することができました。カードの枚数は、日を追うごとに増えていきます。圧倒的に多いのは「発見カード」です。自分の頭で考えること、そしてそれをカードに書き留めることは、本当に楽しいことだと気付きました。

もう一つ考えられるのは、一日のカードの書き始めを「日記から始める」ようにしたことです(「カードを書く#日記から始める」参照)。一日の一番始めに書くカードに日記を据えることで、何から書き始めようかと悩むことがなくなりました。あとは、実際に手を動かしながら、思い出して発見カードを書いていきます。何も書くことがないと思っても、少なくとも1枚の記録カードが書け、さらにそこから5枚程度の発見カードを書くことはそれほど難しくありません。要は、私にはちょんと突くきっかけが必要だったのです。

以上をまとめると、2006年2月から3月にかけての変化は、「適切な方法(メソッド、ソフトウェア、スタイル)を導入したところ、アウトプットが増えた」という事実を示しています。もともと頭の中にはあったけれど出てこなかったものが、PoIC という方法を導入することで、目の前にカードという形で顕在化する。そして、自分の書いたカードの量を見て「これだけ出てきた!」と実感することは、自分の自信にもつながります。

サブシステムの充実

次に、3 の原因について考えてみます。2006年3月に極大化した後、4月・5月とカードの数が低迷し、それから8月にかけて再びカードの数が回復していきます。この頃は、以下のようなイベントが続いています。

  • 野帳」の導入(2006年5月)
  • icPod」(Moleskine Memo Pockets)の導入(2006年7月)

それまで仕事でのみ使っていた野帳を PoIC にも応用します。野帳を導入することで、いつでも、どこでも、考えたその瞬間にアイディアを書き残すことが可能になりました。野帳に書き残したメモは、最終的にすべてカードに一元化して蓄積するので、結果としてドックの中のカードの枚数は増えることになります。これに加えて、icPod を導入し、家・会社間での情報の往来が容易になります。

2006年5月から8月にかけてのカードの回復は、アイディアをさらに効率良く収集・運搬するためのサブシステムを確保したことによるものと考えられます。

季節変化

4 と 5 は、年を跨いだより大きな傾向です。このような傾向の原因として考えられるのは、季節的な要因です。私は、春から秋にかけて出張が多くなります。カレンダーを確認してみると、2006年9月、2007年6月は丸2週間出張に行っていました。こうなると、準備・出張・後始末で、生活にかなりの擾乱が起こります。この間、生活に関するカードはなかなか落ち着いて書けません。逆に、冬になると、相対的に机に向かって仕事をしていることが多くなるので、会社に着いた後のマインドスイープや、昼休みなどの空いた時間を利用して、生活のカードも書くことができます。

カードの増加とエントロピー

下の図は、カードの枚数の積算をグラフ化したものです。赤い線がドックの中のカードの増え方を表しています。これを見ると、ドックの中のカードは、ほぼ一直線に増加していることが分かります。カードの枚数は、2006年2月から2007年7月までの17ヶ月間で計3,376枚(月平均で198枚、一日平均で約6.6枚)となりました。

2006年2月〜2007年7月のカードの枚数の積算。

カードを使って頭の中の考えを書き出すということは、頭の中のエントロピー(情報の乱雑さ)を、ドックに受け渡すことを意味しています。カードを書くことで、頭に掛かる負担を減らし、ストレスから開放する。その一方で、ドックの中のエントロピーは日に日に増加していきます。頭とドックを一つの系として考えると、そのなかでエントロピーはほぼ保存しています。

ドックの中のカードが増えに増え、エントロピーが最高潮に達したところで「再生産」に踏み切ります。プロジェクトに関するカードを検索・分類し、タスクフォースを編成します。再生産の過程を経ることで、ドックの中のカードは減り、エントロピーは一気に減少します。

エントロピーという考え方に関しては、「PoIC を通じて見えたこと」で詳しく考察します。

PoIC の法則

PoIC における生産性を「規模と頻度」の観点から見ると、このシステムを支配する一つの「法則」が現れました。

タスクフォース編成の「頻度と規模」

PoIC に関する私の活動は、「情報カードを書くこと」、「ブログを書くこと」、「マニュアル(ウィキ)を書くこと」の三つの規模に分けることができます。これらは、どのような頻度で発生したでしょうか。ここでは、サンプルとして、2006年2月1日から2007年11月30日の間に、私が書いた情報カードを使って分析してみます。

ぞれぞれの活動の規模を測る共通の単位は、タスクフォースに含まれる情報カードの枚数です。情報カードを書くことは、それ自身がすでに、アイディアをまとめ、小規模のタスクフォースを編成することです。したがって、ドックの中のカードの枚数が、そのまま小規模タスクフォース編成の頻度となります。

ブログを書くのに使ったタスクフォースは、そのつどドックに戻しているため、使用したカードの枚数を正確に見積もることは、今となっては困難です。ここでは、単純化してブログに関しては平均10枚(誤差±3枚程度)のカードを使ったと仮定します。マニュアルに関しては、「お役御免」となり、別の場所に保存してあったタスクフォースの枚数を数えます。これは正確に数えることができます。

PoIC の法則

タスクフォース編成の頻度と規模の関係。PoIC を通じた再生産の過程は「べき乗則」にしたがう。

この計測の結果を表したのが右の図です。横軸を頻度、縦軸を規模で、両対数で表示しています。図の中では、左から、ウィキ、ブログ、情報カードの点を結んでいます。タスクフォースの規模が大きければ大きいほど頻度は少なくなり、逆に、規模が小さければ小さいほど編成頻度が多くなるのは、直感的に理解できます。ここで一番重要なのは、両対数グラフで表現した時に、これらの点が、ほぼ「一直線」になったということです。

両対数グラフの中の直線ですから、PoIC の中で起きる現象の規模(S)は、頻度(f)の「べき乗」に比例していることを示しています。この直線は次のような簡単な形をしています。

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グラフから直線の傾き(指数 b)を求めてみると、PoIC を使った生産性に対して、b = 0.9 という値が得られました。つまり、タスクフォースの規模は、頻度のほぼ逆数(1/f)に比例しています。

情報カードを使った生産性の裏には、このような数式で表すことのできる普遍的な法則があるようです。情報カードを使った生産性を支配するこの単純な法則を「PoIC の法則」と呼ぶことにします。

すべてを統べる一つの法則

上に示した式に従うような法則は「べき乗則(power law)」と呼ばれ、この他にも、自然界のさまざまな現象の中にも現れます。

例えば、ある高さから連続的に砂を落として、砂山ができる様子を観察するとします。砂山の高さは、砂を落とすにしたがって、徐々に高くなっていきます。そして、砂山の勾配がある臨界点に達したところで、雪崩が発生します。小さな雪崩は頻繁に起こり、やがて、大きな雪崩が発生します。この時の雪崩の規模(砂粒の数)と頻度を両対数で表すと、上の図で見たような、一つの直線になります(Grumbacher et al., 1993)。

地震のマグニチュードと発生頻度、株価の変動の大きさとその頻度にも、このようなべき乗則が現れることが知られています(井庭, 福原, 1998)。指数係数 b は、その現象を特徴付けます。地震の場合は地域によらず b = 1 (グーテンベルグ・リヒター則、例えば茂木, 1981)、雪崩の場合は実験的に b = 2(Grumbacher et al., 1993)、株価の変動に対しては b = 3 と求められています(例えばGavaix, 2003)。

また、オンライン書店 Amazon の収益モデルを説明するために提唱されたロングテールも、本質的にはべき乗則と同じことであると解釈されています(注:ロングテールを両対数で表すと、上の図と同じような直線になる)。その意味において、すべてのアイディアを余すことなく捕らえ、個人の生産性の向上に役立てようとする PoIC は、まさにロングテール現象の一つであると理解することもできます。

このように、情報処理(PoIC)、自然現象(雪崩・地震)、人間の群衆行動(株価・ロングテール)といった、全く異なる現象が、「べき乗則」という一つの自然法則でつながるのは、非常に興味深いことです。これらの現象は、すべて、情報の「蓄積」と「解放」という点で共通しています。

砂時計モデル

次に、PoIC の法則を使って、PoIC システムの「ふるまい」を説明する簡単なモデルを考えます。「地震」というとタイムスケールが大きすぎるので、ここでは、砂山の雪崩が起きる「砂時計」をイメージします。砂山(Pile of Sand)と、情報カードの積み重ね(Pile of Index Cards)のアナロジーです。

このモデルの条件は次の三つです。

  • カードは毎日コツコツと書いていく
  • 適当なところでタスクフォースを編成し、再生産を行う
  • タスクフォース編成の頻度と規模には「PoIC の法則」が成り立つ

経験的に、ドックの中のカードは、毎日ほぼ一定の割合で増えていきます。カードの増え方はあくまでも、「コツコツと」、時間とともに線形的に増えていきます。多少変動はあれど、その数は確実に積算されていきます。これは、両対数グラフの横軸で点が右方向に移動していくことに相当します。雪崩を起こすファクターは、あくまでも「カードの総量」です。ドックの中のカードのテーマは一つに限りません。そして、書いたカードはその後、「再生産」に利用されます。

このモデルの新しい点は、タスクフォース編成の頻度と規模に、常に「PoIC の法則」が成り立つと仮定することです。この経験則を仮定すると、タスクフォース編成の頻度と規模のグラフで、どの瞬間にも「傾きが一定の直線」を引くことができます。この直線は、時間とともに進化していきます。すなわち、その時点で編成可能なタスクフォースの規模は、カードの数が増えるとともに(= 時間とともに)大きくなっていきます。

PoIC の歴史

この「砂時計モデル」を使って、情報カードを書くことからウィキ版マニュアルを書き始めるまでの「PoIC の歴史」をたどってみます。

時間軸は、タスクフォースの編成頻度に合わせて、対数で表現しています。PoIC の中の歴史的転換点は対数軸上で発生します。図の中の丸印が、情報カード、ブログ、ウィキを表しています。雪崩の発生は二つの丸をつなぐギザギザの線で表現します。

PoIC の雪崩モデル。小雪崩が中雪崩をトリガーし、小雪崩と中雪崩が大雪崩をトリガーする。

第一段階 - PoIC を始めたばかり : ドックの中の情報は、初期段階が最も混沌としています。この状態でタスクフォースを編成を編成することは困難です。初めの段階では、分類・検索をしたり、再生産することを気にせず、時系列スタック法にしたがって、カードを蓄積してきます。カードを書き続けていくうちに、自分にとって本当に「面白い」と思うことがしぼられてきます。ドックには、自分の興味のあること、面白いと思うことのカードが増えていきます。

第二段階 - ブログを書き始める:私の PoIC システムに「中規模の雪崩」が発生しはじめます。半年ほどすると、自分のドックの方向性が決まってきます。同時に、カードが増えて「これだけ書いてきて、さてどうしようか」と悩む時期でもあります。私は、Flickr での友人の助言もあり、ドックの中のカードを使って、ブログを書き始めることにしました。考えてみると、ドックの中の内容は、自分にとって何百枚もカードが書けるほど「面白い」と思うことです。この面白さを他の人と共有できれば、素晴らしいことです。ブログに書くべき内容は、すでにドックの中のカードが知っています。

第三段階 - ブログを書き続ける:カードが増えるとともに、ブログの記事も少しずつ増えてきます。私は、PoIC システムを使って、PoIC システム自身のことを考えていました。ブログを始めた頃は、本当に初歩的で、情報カード1〜2枚の内容をそのままブログの1記事にしていました。その後は、アイディアをカードに書き留めていき、10枚程度書けたところでブログの記事を書くようにしていました。ブログのタスクフォースは規模が小さいため、毎回「お役御免」にはせず、カードはドックに戻すようにしています。

第四段階 - ウィキを書き始める:PoIC に「大規模の雪崩」が起きます。ブログでは、記事が時系列に並ぶので、書けば書くほど流れ去ってしまいます。初期のマニュアルは、ブログの記事を内容で並べ替えた「Selection」でした。その後、MediaWiki の導入に伴い、それまでに書いた ブログの内容を全てウィキに集約しました。加えて、PoIC に関するすべてのカードをドックから抜きだし、大規模なタスクフォースを編成しました。情報カードは、ブログの内容を補完するのに使われます。日本語化の要望もあり、日本語版も書き始めます。現在のウィキ版マニュアルは、これまでの情報カードとブログの集積の結果です。

新しいものは「積み重ね」が崩れるときに生まれる

ここでは、PoIC に実際に起きた現象から、情報カードを使った生産性に現れる一つの単純な法則を見つけました。この結果については、今後、その再現性の確認を待つ必要があるでしょう。しかし、PoIC の中に、自然界と同じ現象が現れるのは、私にとって純粋に驚きであり、とても興味深いことです。

そこからさらにもう一歩議論を進めて、情報カードを使った生産性に関する一つのモデルを作りました。小雪崩が、中雪崩を起こし、小雪崩と中雪崩を足したものが、大きな雪崩を起こします。このモデルでは「PoIC の法則」が成り立つと、先験的に仮定しました。これは、個人の生産性において、「カードを使って何かをしよう」という動機がある限り、どの瞬間にも必ず一本の直線を引くことができることを意味しています。その「何か」は、最初の頃はモヤモヤとしたものであっても、カードの量が増えるにつれて具体的になっていきます。

指数係数 b の値は、状況・時期・個人によっても変化します。制約のない自然な状態では、b の値はほぼ 1 になるのかもしれません。なぜなら、私の PoIC の活動は、誰から強制されたものではなく、自分が好きでやってきたことだからです。逆に、b を 1 にすることで、より自然な生産性を実現できるかもしれません。指数係数 b の値を仮定すれば、その時点で起こるべき再生産の規模と頻度は、それまで書いた情報カードの数を使って推測することができます。